(仮)ユダヤ人に向けられた銃口 - その4
部屋に戻り、再びメール本文を考える。その前に、きょうの運勢を確認。蟹座。アンラッキー。人間関係で苦労するブルーな日。何かと意地悪されて気分は最悪。寛大な気持ちで接してあげよう。ラッキーポイントは三角定規。って、小学生の算数の授業でもないのに三角定規なんてどこでどう使えばいいんだろう。占いなんて信じることはあまりないけど、きょうのはやばい。やばいぐらい当たってる。寛大な気持ち。わかったよ、あなたの好きなようにしたらいい、好きな人と幸せになるといいね。そうメールを送るべきなんだろうか。そう簡単に終わって良いのだろうか。いままでの長期にわたる付き合いは何だったんだろうか。彼女のことをオレはどう思っていたんだろう。好きな人ができた。突然そういわれても仕方ない。ここ最近は若い子ばかりに目を向けていた。もう一ヶ月ぐらい彼女には会っていないし、電話やメールの回数もここ一ヶ月でかなり減った。自業自得か。でも、それは決して彼女を嫌いになったわけではないし、例えば遠く離れている家族とは毎日会うこともないし、毎日電話が掛かってくることもないと同じで、空気みたいな、そんな感じ。毎日会わなくても、毎日会話しなくても、心は通じ合っている、そう思っていた。それがダメだったんだな。空気のような存在。無くては困るけど、あってもその有り難みがわからない。いまさら反省しても遅いか。
彼女のことは誰よりも理解しているつもりだ。浮気ができるような人じゃないし、他の男と二人で出かけることなんてあり得ない。限りなくゼロに近くない。じゃあ、あのメールは何なんだろう。好きな人ができた。そういわれても信じることができない。彼女の職場には男はいないし、出会う機会もないはずだし、合コンなんていく人じゃない。それは誰よりもわかっている。嘘。嘘なんだろうか。オレを驚かすためにそんな冗談を言ってるんだろうか。ここ数年ケンカなんてしたことはないが、付き合って間もない頃はよくした。そんなとき、決まって彼女はこういった。もう、別れる。最後に必ずそういうと電話を一方的に切り、その後電源も切った。それから数日間は会うこともなく、話すこともない日々が続き、最後にはオレがいつも謝って仲直りした。今回もそれと同じパターンなのか。このメールは彼女の作戦で、オレが泣きつき謝り、ごめんね、もう若い子となんか遊ぼうなんて思わないから許して、いままでほったらかしにしたオレが悪かった、もうそんなことは絶対にしないから。そうメールを返信すれば解決することなんだろうか。わからない。わからないけど、それはオレの本心だ。それだけはわかる。若い子より、彼女の方が大切だ。悩みに悩んだ文面を丁寧に打ち込み、メールに託し送信した。午前七時。朝は少し冷え込む。温かいコーヒーを入れよう、そう思いキッチンに行くとすぐに返信があった。きょうの夜、かならず電話するから。彼女がオレのように眠れず起きていたのか、ぐっすり眠りさわやかな目覚めをしたのかはわからない。そう、オレは何もわからない。まだわからない。きょうの夜までもやもやは続く。